CDとレコード

 ニコニコ動画に最近まで「レコードで音楽を聴いてみる」というシリーズをアップしてきたわけですが、「レコードの再生音を収録しただけ」という動画(というよりは静止画+音声)にどの程度の反響が起きるのかと思っていたところ、地味ながらコンスタントに反響があったことに驚いています。

 もちろん、再生されている楽曲そのものへの反応という面もあるのですが、音質に対する評価も増えてきていて、企画意図がある程度伝わってくれた事に安堵しています。

 ただ、ここで「レコードの音」とされているのは、あくまでレコードの再生音をPCのオーディオインターフェースでデジタル(44.1KHz/16bitのWAV)化して、さらにそれを320Kbpsのmp3に不可逆圧縮した後のものであり、WAVの段階ではCDと同等の情報量ですが、mp3化することでCDよりも遙かに乏しい情報量となってしまいます。それでもレコードの方が良い音質であると感じるのであれば、それはアナログとデジタルの違いなどという次元ではなく、もっとわかりやすいレベルの差でしかないことになります。

 Web上で少し検索してみると、オーディオマニアや技術者を自負する方々が、デジタル(CDやSACD)とアナログ(レコード)の違いについて議論を戦わせている記事に行き当たりますが、私はこの議論はそもそも核心から大きく外れていると思っているのです。

 はっきり言ってしまえば、同一タイトルのCDとレコードを用意したとして、その2つを聴き比べることはCDとレコードの音質比較をすることにはなり得ません。再生機器の実力も確かに音質に影響を与えますが、それ以上にCDとLPに同等の音質で記録されている可能性の方が遙かに低いからです。そして性質の悪いことに、最近では「高音質」を謳っているSHM-CD等の方が本来の音質からはかけ離れていることが多いのです。

 これは最近のリスナーが好む音質傾向の問題があります。20年ほど前までは、オーディオが一大ブームとなり、多くの家庭に高品位の再生装置がありました。ところが現在ではiPodや携帯電話、PCが音楽再生の道具となっている人の方が、遙かに多いのではないでしょうか。これらの多くはmp3やATRAC、AACやWMAなどの圧縮形式でデータを扱います。非圧縮形式を扱える機械も少なからずありますが、現実問題として非圧縮データを中心に扱っている人は殆どいないでしょう。

 これらで聴く限り、ダイナミックレンジの広いソースの良さはほとんど引き出されることはなく、むしろダイナミックレンジを意図的に狭めて可能な限り大音量に聞こえる、派手な音のソースが良いように感じてしまうのです。実際、最近発売されている多くのCDを波形編集ソフトなどで開いてみればわかると思うのですが、ピークレベルが0dBに貼り付いているというCDばかりです。鶏と卵の理論になってしまいますが、いずれにしても最近のCDは以前と比べても聴感上の音量が大きく上がっているものが多く、レコード会社側も確信犯的に大音量に聴かせているのは間違いないでしょう。

 私もレコードの再生音をアップする際に、実は少しだけダイナミックレンジを狭く加工してからmp3に変換しています。そうすることで聴感上の音量がCDソースに近づき、音量差だけで印象が不利となることを避けられるからです。

 話を戻しますが、CDとレコードの音質的な違いを論じるのであれば、まずは全く同一の条件で制作されたマスターに基づいたそれぞれの盤を用意するというのが最低条件となります。それすら出来ない状態で、理論的にデジタルとアナログの違いを語ること自体が不毛なのです。音楽ファンとしては、「このアルバムの○○年リリースの再発盤は音が良い」などという楽しみ方があるわけですが...。

 「デジタルだから××、アナログだから△△」などと論じる前に、まずは発売年や製造国の違いがあるCDとCDの聴き比べ、LPとLPと聴き比べをしてみた方が思いもよらぬ発見が出来て楽しいのではないでしょうか。

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このページは、JIVEが2010年9月20日 22:00に書いたブログ記事です。

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